一般社団法人 日本カラーコーディネーター協会[J-color]

一般社団法人日本カラーコーディネーター協会

 
 

対談企画Vol.6:NPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)事務局 副理事長 伊賀 公一氏<前編>

2017.10.27

対 談 前 編

“「色覚の多様性」を知る”

三木:
今日は、CUDの活動について知りたいのはもちろんなのですが、カラーコーディネーターや色の検定についてもご意見を伺いたいし期待を込めて辛口なアドバイスもいただけたらと思っています。
宜しくお願いいたします。
伊賀氏:
宜しくお願いいたします。
三木:
早速ですが、我々仕事上、結構学校にも行くんですね。
それは高校もあれば、デザイン系、インテリア系、服飾系の専門学校などいろいろです。
カラーコーディネートの授業で色相環やトーンマップを作成したりする中で色弱かな?と思われる学生がいることがあります。
本人がわかっていない場合もありますが、わかっていて自ら「ちょっと弱い(色の見え方)みたいなんですよね、僕。」といってくることもあります。ちょっと弱いとは言っても、どの程度多くの人と見え方が違っているのかはわかっていないのかなと思います。
伊賀氏:
それはいうなれば今の検査制度による問題でしょうか。
色覚検査をやって、標準とちょっとずれていると言われても、それだけでは本人は認めようがないのです。
誰しも自分の見えている世界しか認められませんから。
何が問題かというと他の人と自分が感じている配色の差が違うということなんです。
それをどうやって互いに理解するかです。 ところで色覚検査っていつ始まったか知っていますか?
三木:
徴兵検査ですよね?
伊賀氏:
日本では約90年前に鉄道会社と病院と陸軍とで色覚検査を始めた。
その2年後、学校で色覚検査が始まります。陸軍と学校は石原式。
三木:
そこが始まりなんですね。
伊賀氏:
ここで話す人間の色の見え方というのは、そもそも病気でもなければ欠陥でもなければ障害でもない。
眼科医では、色覚異常者と呼んでいるわけですが、人類が進化の過程で獲得したいろいろな特質の中の一つです。
人類は、赤と緑を見分けやすい人もいるし、青と黄色を見分けやすいとか 緑と青緑が見分けやすい人とか、いろいろな人がいるわけです。それを色覚異常と呼んでいる今の社会はおかしいですよね。
それを世の中の制度にしてしまって、就職させないとか免許をとらせないとかいろいろつくったもんだから大変な問題だったわけですよね。
三木:
「色覚の多様性」については、まだあまり知られていないのでしょうか。
伊賀氏:

人によって色の見え方が違うというのは知っているか?というと「うん」という人もいるかもしれないけど、色弱の人が20人に一人いるということを知っている人はあまりいないと思いますね。色がどう見えているかになるとほとんど知られていないと思うんですけど。

そして、まず、本人がわかっていないですよ。
P型強度の私自身についていうと、自分の見ている世界が皆さんとどう違って見えているのか30歳くらいまではまるでわかっていませんでしたね。
当事者も、その周りにいる人も普通にはわかるわけがないんです。きっと。
だから当事者が周辺にいない一般の人は知るはずがないと思います。
そういうこともあって今までは、色覚の差について理解するのが難しかったんだと思います。
そのハードルを下げるのに何が有効かというとたとえば、体験用メガネとか、スマートフォンアプリの色のシミュレーションのようなものではないでしょうか。まずはどう見えているのかを体験することではないでしょうか。もちろんこのようなものは、色覚そのものを100%再現するものではありませんから、誤解を受けないように正しく使わないといけないと思いますが、こういうのが一番理解が進むと思います。

三木:
手軽にですよね。
伊賀氏:
アプリは、いろいろあるけれど「あの色とこの色は、見分けづらいんだな」ということが手軽にチェックが出来るようになったので割とわかるようになったと思います。
やっぱり、「色覚の多様性」というものがどういうものであるかをちゃんと知らないといけない。
色の見え方は人類が進化の途中で獲得したもので、いろいろなタイプの色覚で人類が成り立っていること、色の見え方が単一だったら発展しなかったかもしれない。色弱であるか否かは、眼科医が決めているかもしれないけど、色覚に配慮のない時代の信号機の見分けのために検査をつくりだして150年以上も正常と異常に分け続けているのはおかしいでしょ。これを機会に変えましょうって言っているの。

“何のための色覚検査か?”

三木:
昨年から、また色覚検査が始まりました。
検査についてはどう思いますか?

色覚検査のすすめのポスター
伊賀氏:
色覚検査を止める時の理由は、訴えによるものだった。
かつては理科系への進学や、就職などに多くの制限が設けられていたが、どんどんそのような制限は廃止された。
学校検査は国会で議論され、検査の義務化は廃止された。
その時の話では、「学校生活上大きな不便はない」「学校での配慮が進んだ」というものでした。そのまますべての職業制限がなくなったわけではなく、パイロット、鉄道運転士、警察官などは色覚で資格・就職制限を設けている。
なぜそのような制限があるのか合理的な説明が必要だと思う。
学校では将来制限があるから今のうちに検査をしようと進めているのが現状。
今は、色覚検査も何のための検査であるかが大事。
単に、人前で病気よばわりされるためだけの検査ではだめだし、根拠のない就職制限をするためのネガティブなものになってもいけない。

社会の色が配慮されてないと、危険だし、公共交通機関を色分けして案内すると、乗り間違えとか混乱を招く可能性もあるけど、わかりやすかったらそういうこともない。
私などは5分あれば大丈夫という場所も用心して1時間前には行ったりしている。

これは、小田急のストップボタン。皆で決めたんですよ。
各色覚の方と、デザイナーと、色彩学者なども交えて皆で。皆の力で総合点で決定する。
その際、誰かはまるで理解できないというのをつくらないようにする。
そうすれば何も問題はないけど、これまで世の中の色を決めるときに、なぜ私たちを入れなかったのか。そういう時代が何十年もあった。
中には、専門的なもので皆が使わないものもあるかもしれないけど、多くの人が使う共用のものの課題解決、すなわちデザインとしてユニバーサルデザインというのがあるわけなので。

小田急電鉄の非常停止ボタン

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NPO法人 カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)
事務局 副理事長 伊賀 公一
http://www.cudo.jp/

自由研究者 視覚情報デザインコンサルタント、CUDO専属テクニカルアドバイザーとして講演・セミナー、コンサルタント、外部顧問などを引き受けている。
1級カラーコーディネーター(商品色彩)
湘南工科大学 デザイン科 特任講師
日本色彩学会正会員 日本建築学会正会員
著書:カラーユニバーサルデザイン(ハート出版 2009年)
色弱が世界を変える(太田出版 2014年)他